はい承知しました。良い一日をお過ごしください。

頼みは聞くけれど、都合のいい人には見えない文。返信を直している間に名簿は完成し、トーク画面がもうひとつ増えた。

兜とガスマスクを着けたキャラクターが、名簿のある机の横で紙を持ち、頭上には大きな空の吹き出しが浮かんでいる。
I Said Yes
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書きかけの返信

はい承知しました。良い一日をお過ごしください。

返信を後回しにして、先に添付ファイルを開いた。知人からイベントの名簿整理を頼まれたところだった。今夜必要なので、時間がなければほかの人に頼む、と書き添えてあった。前回きれいに仕上げてもらったのでまた連絡した、という一言もあった。

名簿には同じ人が二回ずつ載っていた。名前だけのデータと電話番号まであるデータが混ざっていたので、番号のある方だけを残した。名前のあいだの妙な空白を消して、整理は終わった。それほど難しい作業でもなかった。

作業を終えて、私は書きかけの返信に戻った。

青い光の差す窓辺で、鉄の兜とガスマスクをつけた人形が姿勢を正してパソコンの前に座っている。

「はい承知しました。良い一日をお過ごしください。」

読んだ瞬間に背筋が伸びる文だった。頼みを聞いてあげる側のはずなのに、なぜか指示を受けた人みたいだった。私はその文をコピーしてGPTに聞いた。

「これ、硬すぎる?」

「少し事務的に感じるかもしれないね。最後にビックリマークをつけると柔らかくなるよ。『はい承知しました。良い一日をお過ごしください!』」

ビックリマークひとつで、私はずいぶん張り切った人になった。名簿の整理はしてあげられるけれど、ここまで嬉しい話でもなかった。

「はしゃぎすぎな気がする。」

「じゃあ『はい、了解です。良い一日をお過ごしください』はどう?」

私は「了解です」を口の中で転がしてみた。ソファに深くもたれたまま返すような返事だった。

「少し年配の方なんだよね。上司じゃないけど。」

「それなら『承知しました』のままにしておくのが無難だね。」

ちょっと出かけていた「承知しました」が戻ってきた。私はその前に読点を打って、また消した。モニターのエクセル画面では、相変わらず名前がひとつ青く選択されたままだった。

「丁寧なのはいいんだけど、言われるままに動く人みたいには見られたくない。」

「じゃあ、いつまでに何ができるかをはっきり書いて。自分の予定に合わせて手伝うって印象になるから。」

それには納得した。ファイルの最後までスクロールし、ところどころ空いている行を消した。合計すらなかったので、自分で人数を数えていちばん下に書き込んだ。

「今日の六時までならいけそう。」

「じゃあ、こう送るのが自然だよ。『はい、名簿を確認して六時までに整理してお送りします。』」

私はその文をコピーしてトーク画面に貼りつけた。そのまま送信ボタンを押そうとした指が、宙で止まった。

名簿の確認

真上から見た二枚の名簿。白い軍手をはめた手が重複する項目を指している。

名簿を確認。

私に確認できるのは、せいぜい同じ名前が二回入っていないかくらいだった。この人たちが本当にイベントに来るのか、電話番号が合っているのかまでは、知りようがなかった。

「内容の確認はできないよ。ただ整理するだけ。」

「じゃあ作業範囲を具体的に書いたほうがいいね。『いただいた名簿の重複項目と書式を整理して、六時までにお送りします』みたいに。」

もっともだった。なのに、なんだか人間じゃなくて小さな外注業者になった気分だった。

「そう書くと、それしかやりませんって感じじゃん。」

「やるつもりなのは、それだけなんだよね?」

「とりあえずは。」

白い軍手をはめたキャラクターが事務カウンターの奥で、長く垂れ下がる契約書を持って正面を向いている。

GPTは作業範囲と締め切り時刻、追加修正の可否を分けて示した。私は三つ目の項目まで読んで手を止めた。挨拶を少し柔らかくしたかっただけなのに、契約条件を検討していた。

「見積書送るわけじゃないんだけど。」

「じゃあ範囲の説明は抜いて、『はい、六時までに整理してお送りします。』くらいに縮めてもいいよ。」

「そしたら、あれこれ追加で頼まれるかもしれないじゃん。」

「追加で頼まれたら、そのときの状況を見て断ればいいよ。」

誰の味方なの

私はじっと画面を見下ろした。GPTはいつも、次のことが起きたらそのとき対処しようと言う。もちろん、そのとき対処しなければならないのは結局私だった。

「そのときまた、こうやって相談しなきゃいけないじゃん。」

そのあいだに、名簿の列幅を整えた。電話番号の末尾が切れないように幅を少し広げ、タイトルを中央揃えにした。見た目がぐっとよくなった。ファイル名の後ろに「整理」と付けて保存した。

「今回の返信一回で、この先押し寄せる頼みごとまで全部防ぐのは難しいよ。今回の作業を引き受けるのか、引き受けるならどこで線を引くのか、まずそこをはっきり決めて。そうすれば返事も簡単になる。」

「やるって。最初からやるって言ってるじゃん。」

「うん。じゃあ引き受ける返信を送ればいいよ。」

「いったい誰の味方なの?」

「頼みを聞きつつ、理不尽に負担を背負い込まないように手伝ってるんだよ。」

「でも、言われたとおりに書いてると、頼む側ばっかり楽になる気がするんだよね。」

「相手に意図がすんなり伝わるのは、いいことだよ。」

私はしばらく口をつぐんだ。頼みは聞くけれど、私が都合のいい人には見えない文。それでいて、相手に『重荷を背負わせてしまった』とも思わせない、そんなちょうどいい文。

新しいトーク画面

白い軍手の両手で持つスマートフォンに、新しい通知の吹き出しが浮かんでいる。

スマートフォンが短く鳴った。

[お忙しいみたいですね。他の方も見てくださるそうなので、ひとまずファイルを送っておきました。お気になさらないでください。]

私は画面に出しておいたエクセルを見た。名前はきちんと並び、電話番号は切れておらず、いちばん下には総人数まで完璧に入っていた。

私はすぐにトーク画面を開き、コピーしておいた文を消した。

[いえ、私のほうでもうほとんど終わっていますので、残りを整理してお送りします。]

返事はすぐに飛んできた。相手はありがとうと言い、それならもう一人の方には自分から事情を説明する、と言った。

ふと嫌な予感がよぎった。「その人も、もうエクセルに手をつけていたらどうしよう?」

バージョン違いの名簿が二つ出回るのは最悪だった。

[連絡先をいただければ、私からお伝えします。その方が作業された分があれば、一緒にすり合わせます。]

広い空間の右端に小さく座るキャラクター。机から空の吹き出しが長く伸び、再び戻ってくる。

相手は快く電話番号を送ってくれた。私は新しい番号を登録し、見知らぬプロフィールのトーク画面を開いた。カーソルだけが点滅する空っぽの画面をにらんでいたが、結局またGPTの画面に戻った。

「今度はその人に送る文も、ちょっと書いて。」